ぼくがソラになったとき。


「は?話しかけてくんな、アホが!」

刀で背中を切られたような言葉をぶつけられた。





突き抜けた青い空が、妙に気持ちがいい。仕事に忙殺されていたせいか、その蒼さに見入ってしまっている。
2014年4月、僕は休みを取って沖縄にいた。

同僚と自転車を借りて、海辺を走る。蒼い海に身を寄せ合いながら、柔らかい風に混じって、4月なのに容赦ない陽射しが、僕を焼いてくれる。

同僚が「仕事なんてやめてこっちの島でも買おうや」
本音ともジョークともわからなかったけど、気分はそっちに向いていた。
開放的な空間、三線の愉快な音楽、おいしいお酒、全てが満たされていた。




その同僚が、急遽大阪に戻ることになった。急な問題のようだ。
「突然のことなのでしょうがないね」と空港まで見送る。
背中が見えなくなるまで見送ると、ふと寂しくなった。一人になった寂しさもあるが、
初めての沖縄に来た理想と多忙な仕事の現実との間に戻った気がした。


ホテルに戻り、シャワーを浴びオリオンビールの缶を空けた。「ぷしゅー」の勢いある音と身体のほてりと沖縄の生暖かさが相まって、すぐ飲んでしまった。


「クラブに行こうかな」


直感でそう思った。学生時代数回しか行ったことのないクラブだったけど、行きたいとなんだか思った。寂しさに酔いが後押しして、きっと紛らわそうとしていたんだと思う。

きっと一人だったかもしれない。同僚がいたら絶対にそんな思考回路には至ってない。寂しさとともに、人が多くて賑やかな場所で癒しが欲しかったのかもしれない。


そこでGoogleで「沖縄 クラブ ナンパ」と調べてみた。
一番上にヒットしたのは、asapenさんの沖縄でナンパした時のブログ(現在はブログは削除)だった。

(うわぁ〜!すげ〜!!)読みながら興奮して言葉を発していた。
2泊3日でナンパしたことが、理論と戦略と共に小説のように書いてある。

一気に読んだ。
それと共に自分の気持ちが「こうなりたい」と言っている気がした。
まるでサッカー元日本代表の本田が、リトル本田に本当の気持ちを尋ねているようだった。ナンパ師という存在を初めて知った。


感化されたら行動は早い。
23時。着替えてクラブに向かった。


「club epica」というにぎわってそうなクラブがヒットしたのでタクシーに乗りながら期待と不安を持って向かった。気持ちさえ明るければ、外の街灯がキラキラ点滅し、気持ちを後押ししてくれるようだった。



結論から言うと、10分で出てきてしまった。

平日でフロアには15名くらいしかいなかった。23時過ぎで、ネットの情報には「平日は遅い時間程、混雑している」と書いてあったが、閑散としていた。
備えつけの泡盛を飲んだり気を紛らわし、踊っているフロアの端にいた20代前半で茶髪でハーフ顔の子に勇気を持って

「こ、こ、こんばんは」

と話しかけた。
挙動不審だったかもしれない。ナンパの「ナ」も知らない僕が発した言葉は、いやくたどたどしくなった。


「は?話しかけてくんな、アホが!」

刀で背中を切られたような言葉が返ってきた。
あぜんとし、「す、すみません」と言って一目散に出口に逃げた。


怖かった。何より自分を否定されているのが何よりも。
沖縄のいいところは、そんな嫌なこともすぐ忘れられることかもしれない。
そして度数が強い泡盛のおかげかもしれない。


外に出ると、自分のあきらめの早さがあほらしくなったが、嫌な気持ちではなかった。むしろ、超インドアな自分がよく一人でクラブに来れたことが誇らしくもあった。



ナンパ師。



詐欺師とも似つかわない言葉であるけど、すげーなって思った。
きっと僕以上にきつい言葉を浴びてきたんだと思う。共感とともに、「いつか自分も」と思った。




眠れない夜だった。早起きして海沿いを歩いていると、朝日がゆっくり昇っていた。
昨晩起こった興奮が蘇ってきた。

朝日のおかげで、海の色がどんどん変化していく。
人生のようだった。
燃えるような赤から、橙色。そして黄色、青色に変わって行く。


いつか自分もなりたいな。
心の中で叫んでいた。




女性を魅了したいんだ。自分は。



突き抜けた青い空が、妙に気持ちがいい。仕事に忙殺されていたせいか、その蒼さに見入ってしまっている。
それともナンパ師という存在が自分の背中を後押ししてくれたおかげか。





それから4年後。ブログの読者の期間が長かったけど、重い腰を起こして2018年7月。
大阪で「ソラ」としてほそぼそと活動しております。
まだまだしょぼ腕ですが、活動報告などあげていけたらと思います。


女性を魅了する。

そう誓ったように。



ソラ